まず、古民家の価値について考察していく。
古民家とは、古くからそこにあり続ける住居のことであって、建築的価値があるかどうかは全く関係がない。また民家というからには、人が住む機能を有していなければならない。いま使われていないものについては、すでに「古民家」とはいいづらいのだ。
民家は、住人の生活や状況が密接に関わっており、そこを抜きにして語ることはできない。資金があれば、より性能のいいものに建て替えることは、至極当然である。
その点、なぜその古民家が現在まで残っているのか、という点を慎重に考慮しなければならない。
まず、もともと建築当初にどれくらいの資金を投じて建てたかによって、耐用年数にも偏りが発生する。そして、生活の変容に対応できないものは建て替えを検討される。
ここで、価値を認められるまたは特段の愛着を寄せられていれば維持されるが、たいていは壊されてきた。
つまり今残っているものに関しては、前提としてつぶれずに耐えてきたものであり、
1・生活の変化に柔軟に対応できた
2・特に大事にされてきた
3・建て替えられず仕方なく使いつづけた
おおまかにこの3つに分類できることがわかる。これらを保存活用の観点から考えると、
1に関しては、ほぼそのまま住宅として供用できる
2,3は、このまま住宅として使うには相当な不便を強いられる場合がある。
これらは実際に長年住んでいる人に聞かなければわからないものであり、住宅として使われなくなる前に調査する必要があるが、私的な領域に踏み込むのは現実的でない。
そして、今は使われなくなったがまだ建物として残っているという「廃古民家」については、建物がどうであろうと住む人がいなくなってしまって廃屋になった可能性があり、上記の1,2,3が当てはまる場合がある。

これらの古民家・廃古民家の価値をどう見出すかが難しいところである。
主に、「古民家」の要素として以下のものがある。
A・建築に関わる技術・技巧
B・古来の住環境
C・歴史のある形状
D・古材の美しさなど、外観

ここで重大なのが、住んで「古民家」として利用するのか、住まずに「古建築」として活用するのかはっきりさせないといけない、ということである。
まず、初めの分類で1の場合は、問題なく供用できるが、2,3の場合が課題となる。
本来ならばすべてを重視したいが、A,Bが入ってくると建築の機能を変えることができないため、住宅として使い続けることには困難が伴う。つまり、一般的に住宅として活用する場合はC,Dのみを重視し、大改装を行うほかないのだ。
ほとんどは観光開発などを目的として保存されるため、外観が重視され、中はすっかり変わっていることが多い。
しかし大改装を受け機能の変化した住宅が、果たして古民家と言えるのかどうかは疑わしい。本来ならば、AからDのすべてを満たしていなければ、純粋な古民家とは言えないだろう。古材を用いた現代住宅という解釈の方が近いのではないか。
また、ただの見学だけを目的とした保存では、Bが足りなくなる。
ここまでくると、大きな矛盾が見えてくる。古民家を「古民家」として活用する方法が、外部の私たちには無い、または非常に少ないのだ。
1に当てはまる住宅には問題がなく、今後も住人のもとにあり続けるため、関われない。
2,3は住宅として使い続けるには大改装するしかない。
これは、古民家が時代から取り残されて消えるという流れから考えると、
とても当然で簡単な結論である。
しかしいま日本には、古民家を「古民家」に近いかたちで活用している事例が増えてきている。ゲストハウスなど、短期滞在用にするアイデアである。
その他、合宿所として一週間滞在する、いわば生活体験の発展形などが実践されている例が少数存在する。地元足柄で戦前から続く「はじめ塾」は、子供の生活力の向上など様々な面から、古民家を合宿舎として使い、期間中みずから生活している。

結局のところ、
私たちには古民家を「古民家」として活用する方法が少なく、綿密に利用方法を画策しなければならない状況である。景観を重視する改修や取り組みは進んでいるが、技術や生活環境は、いまどんどん忘れ去られている。特に今は、高度経済成長前の生活を知ることができる、最後の機会なのだ。
コロナ禍のいま、都会暮らしから田舎への回帰がわずかずつでも進み、将来的に一つの地域に定住する習慣が戻ってくる可能性があることを考えても、後世に技術や生活を受け継ぐ責務を果たすのは、私たちの世代である。長年受け継がれてきたものを、簡単に忘れるわけにはいかない。
古民家は、物質的にそれらの記憶をまとった最後の証拠なのである。

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